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柴原誠氏インタビュー[最終回]

-そういった育成年代のエスパルスの下部組織というのは、どう見ていますか?

そうですね。エスパルスは結構難しいですね。僕はよく他のクラブを見に行ったりしているのですが、全然違いますね。

-他のクラブと何が違いますか?

僕の勝手な感じ方ですけど、人材も含めて内部がちょっとお高く止まっているというか、「自分たちの方が偉いのだよ」と上からの感じで…。まあ僕だからということもあるのかもしれないですけど、例えば川崎フロンターレとか鹿島アントラーズとか横浜F・マリノスとかと交流をさせてもらっているのですけど、対等なレベルで話をしてくれますね。僕のような全然知らない外部の人間と話すときも、J1クラブにもかかわらず対等な目線でしっかりと話をしてくれて、僕の考えも尊重していただけますし、意見の相違があったときには丁寧に話をしてくれて、意見交換をしてくれるのですね。ただ、エスパルスの場合はそうではなくて、いくら僕が元エスパルスの選手やスクールのコーチをやっていたからといっても、もう独立しているわけですから、もう少し対等な目線で話をしてもらいたいなというのが正直な感想です。

子供たちには毎年鹿島に練習参加をさせてもらい先日も行って来たのですが、鹿島では小笠原満男さんや中田浩二さん、本山雅志さんたちと一緒にサッカーをさせてもらったり、話をさせてもらったりするのですが、小笠原さんや本山さんからしたら、僕のことなどまったく知らないわけですよ。元エスパルスでプロ選手だったとはいえ全然知らない選手でしょうし、小学生のサッカーチームの監督をやっていることも小笠原さんや本山さんはユース関係なので全然知らないのですね。しかも元日本代表で素晴らしい実績のあるレジェンドなのに、プロでまるで実績のない僕に対しても、対等に会話をしてくれるのですよ。そういう部分は本当に違うなと感じました。

-その辺は、人というよりもクラブの体質の違いかもしれないですね?

そうかもしれません。僕がエスパルスの試合会場へ行って関係者の方と会うと、ほぼ全員に言われるのは「なぜエスパルスに選手を送らないの?」とちょっと怒られ気味に言われます。去年のエースだった選手はJFAアカデミー、サイドアタッカーの選手は川崎、センターバックの選手は鹿島へ行きました。それでその次くらいのレベルの選手たちの4人が静岡学園へ入りました。もちろん僕は子供たちに「エスパルスもあるのだよ」とは言いますけど、鹿島や川崎、福島、マリノスなどの環境をすべて見せて「どこ行きたいか?」と子供に選択させて、「○○に行きたいです」、「○○でチャレンジしたいです」と自ら言ってきたら、そこへ内定を勝ち取りに行くのですよ。だから彼らが自分たちで選んだ進路なのです。

もちろんエスパルスの練習にも行かせましたけど…。当然僕らは「エスパルスには行くな」なんて言ってないですし、選択肢の中には入れてあるのですが、エスパルスの関係者は僕がエスパルスに行かせないようにしていると思っているみたいで、「ちゃんとやれよ」みたいな感じで言われてしまうのですね。でも、もう僕は独立しているわけだし、今はエスパルスの人間ではないので、進路を絞るのではなくて子供たちに決めさせている結果なのですけどね。まあ僕のことを身内と思ってくれているのかなとも思いますけど、他クラブとのギャップは大きいですね。だから第三者的に見ると「大丈夫かな」と思ってしまいます。

-柴原さんはラジオ中継の解説でエスパルスの試合を見ていると思いますが、今のエスパルスのサッカーについてはどう感じられていますか?

今はJ2なので、相手のレベルも落ちますからある程度はボール持てますよね。だけど僕がずっと思っているのが、僕がエスパルスに加入したくらいからサッカーの質が変わっていないと思っていて、その前の健太さんのときやそれ以前というのは、やはり流動的でシンボルの選手がいて、中から外、外から中でそのクロスから岡崎(慎司)選手や(フローデ)ヨンセン選手が得点するみたいな、そういうエスパルスのスタイルというものがあったと思います。選手も一人ひとりに個性と上手さがあって見ていても楽しいし、藤本淳吾さんなんかは僕が見ていても「上手いなぁ」と。エダさんも「なぜそこにいるんだろう」とか、イチ(市川大祐)さんのクロスは「凄いなぁ」とか、アレックスも「化け物か」とか、ヨンセンは「こんな体を張れてチームのために動ける外国人はいないな」、岡崎さんは「これで点を取っちゃうの」みたいな、そういう選手が揃っていたのですけど、今の選手は個性も強くなくて、プレーに感動や驚きというものがあまり感じられないかなと。

FCガウーショの選手たちは凄く頑張ってサッカーをしていると思います。だけど、勝ったり負けたりでまだ子供ですから、サッカーがやれていない。下手なのですね。先日も関東のチームと試合をすると負けてしまいました。戦術面でも。だから僕は子供だからしょうがないと思えるのですね。子供だから負けるときもあるし、戦術的な理解度もまだ弱いし、ボールの動かし方も分かっていないから、ただ頑張ってやっている感じなのですね。エスパルスのサッカーもそんな感じに見えますね。選手たちは頑張っています。だから相手よりも個人的に上回れば勝てるし、相手に戦術的に上回られたらやられてしまうという、そういう感じに見えていますね。それと今のエスパルスの戦術は原理原則があって崩したり、守ったりという意図があまり感じられないというのが、正直な感想です。

それでも乾(貴士)選手が入ればやっぱりボールが動いて、そこで時間を作れる選手もいるのだから、乾選手が入るといわゆる「戦術乾」が発動されるなと思っています。ただ「それがいつまで続くのか」という話で、乾選手がいなくなったらどうするのか。チームとして、ある程度固まった戦術やエスパルスのスタイルというものを持たなければいけないですし、「乾選手はずっといないよ」と。選手をいくら入れ替えても、そこを確立させなければ同じことの繰り返しだと思っています。J1でずっと戦えているチームというのは、人が入れ替わったとしてもチームコンセプトに基づいて戦っているので、簡単にはJ2へ降格していないじゃないですか。エスパルスも早くそうなってほしいとずっと思っています。僕もそれを踏まえて、自分たちのチームのスタイルというものを確立させたいなと思っています。

-柴原さんのチームは、どのようなスタイルでしょうか?

「変幻自在」、「臨機応変」、「柔軟」という感じです。去年に別の取材でも話したのですが「後出しじゃんけんができるチーム」という、相手がパーを出したらチョキ、グーならパーという、相手がボールを蹴って来たらこっちはこうするよとか、相手が繋いで来たらこうするよというように、相手に対して順応できるチームを作りたいと思っています。

-ただそれはプロでも難しいことかなとも思いますが、そのためにはどういう指導をして行こうと?

そうですね。ただまだこの年代のチームだとそこまでの指導者がいないので、各チームのスタイルというものがワンパターンなので、ポゼッションか蹴って前からプレスをかけるかリトリートするかのどちらかどれかしかないのですね。だから「相手がこうして来たらこちらはこうしよう」というやり取りを選手とずっと続けていると、試合中に選手たちができるようになるのですよ。6年生の後半ぐらいになればピッチの中で選手たちが自分たちで話し合って対応しています。

-それは凄いことですね?

ですね。去年の県のタイトルを取ったメンバーはそれができたので、僕はベンチにいて「ナイス!」と声をかけるくらいしかやることはなかったです。まあ少しはポジションを修正したり、情報を伝えたりはしていましたが、選手たちが自発的に相手を見てフォーメーションを変更したりして、僕が指示を出さなくても「後ろを2枚にして1人前に出そう」とか言ってやってくれるのですよ。その選手たちは僕が1、2年生の頃から教えてきた選手たちなので、「後出しじゃんけん」が体にすり込まれていたのですね。しかも、彼らが凄かったのは、相手に合わせて守ってからの攻め方までも分かっていたことです。それで相手がまたやり方を変えるようならば、それにも対応して攻撃ができるという、将棋の対局のように何手先まで読んで戦う感じでしたね。

-柴原さんの指導スタイルというものは?

僕は、自分のチームの選手たちには「頑張ろう」とか「絶対やれよ」とは言わないですね。円陣とかもウチの選手たちは組まないのですよ。僕に似てきちゃってみんな淡々としていて、勝っても喜ばないです。それは優勝したとしても僕に怒られるので…。先日の静銀カップで今の6年生が、5年生のときの2月に優勝したのですけど、その時に僕は優勝した選手たちにめちゃくちゃ怒ったのですよ。「こんな試合をしていては将来困るよ」という話をして、「優勝したことはすごいことだけど、だからと言ってみんなの人生においてこの優勝というのは何?」という感じの話をしました。「優勝して今日は喜んでいいけど、明日には忘れろ。今日のプレーは最悪だった」と。もちろん県内で優勝する力はあるのですけど全体的に良くなくて、将来にこの子たちがプロになるためにはこんなプレーをしていたらダメなのですね。そういうプレーをしていたので優勝はしましたけど怒ったのですよ。選手たちとはそういう話を結構しています。「優勝はしたけど大丈夫?」、「勘違いしていない?」と。

-でも本音は嬉しいのですよね?

それは嬉しいですよ。みんなが頑張った結果ですから…。でも僕が喜んでしまうと子供たちは「これで良いのだ」と思ってしまいますから、僕は子供たちの前では喜んではいけないと思っていますし、子供たちの前では「常に上を目指している厳しい監督」という姿を見せています。でもあとでコーチたちとじっくりと喜びました。

-柴原さんの今後の夢について聞かせて下さい。

そうですね。とりあえず今は3つありまして、これもぶれずにずっと変わらないのですが、この先にこのチームが何百年と強くあり続けられるシステムを作りたいです。僕がいなくなろうが、次の第2世代、第3世代になったとしても、静岡県のトップを圧倒的な強さで走り続けられる完璧なシステム化を構築することです。それがまず1つの目標で、もう1つはやっぱり僕が生きているうちに全国制覇はしたいですね。あと1つはこの先にこのチームからプロの世界でどれだけ僕よりも上のステップへ行くことができる選手を輩出できるかということ。その選手には、さっきも話したような僕の経験したことをいつか話すような場面があればしっかりと伝えたいと思っています。そうすれば僕よりは楽しい充実したプロ生活を送れると思いますし、僕より活躍してくれるのではないかと思っていますから、そういう意味でも楽しみですね。

-プロクラブのコーチや監督というのは考えてはいないですか?

それはまったく考えていないです。僕は、日本のサッカーの優秀な指導者が上のカテゴリーを目指すことは良くないことだと思っていまして…。小学生より中学生、中学生より高校生、高校生より大学生、大学生より社会人、社会人よりプロの方がサッカーは上手いじゃないですか。だから上に行けば行くほど教えることは少なくなるのですよ。逆に本当に教えなければいけない、初めてサッカーをやる子や、これから上手くなっていく小学生とか、その一番大事な年代の指導者のレベルが高くないのが、今の日本のサッカー界の現状で、その原因はやっぱり給料が安いからなのです。だから、僕が良い指導者かダメな指導者かは分からないですけど、僕は今の小学生を指導する位置に居続けます。大袈裟なことを言っているように聞こえるかもしれないですけど、日本のサッカー界のために僕が努力して、そして力をつけて選手を育てます。と言うか、僕は高校生とかプロを教える器ではありませんよ。

-最後に、エスパルスサポーターの皆さんへメッセージをお願いします。

僕はエスパルスで活躍できずになかなか貢献することはできませんでしたが、僕が育てた選手たちが今後エスパルスで活躍してくれる日が来ると信じていますので、その時を楽しみに待っていてください。
あとは、小学生の試合のニュースがメディアに取り上げられることは少ないですが、少しでも見守っていただけると子供たちの励みにもなりますし、僕の刺激にもなりますので、これからのFCガウーショにも注目してもらえたら嬉しいですし、これからも常識を超えたことをやって行きたいと思います。もちろんエスパルスのこれからの躍進も期待していますし、今年こそみんなの期待に応えて、J2優勝、J1昇格を達成できるように、サポーターの皆さんも後押しをお願いしたいと思います。

-今回はありがとうございました。益々のご活躍を期待しております。

ありがとうございます。また取材に来ていただけるように頑張りますので、よろしくお願いします。

 

 

 

 

プロフィール

1992年生まれ
静岡県静岡市駿河区 出身
清水エスパルスジュニアユースを経て清水エスパルスユースから2011年にトップチームへ昇格。世代別の日本代表にも選出されたが清水でのリーグ戦出場は叶わずにその後、FC岐阜、福島ユナイテッドFCでプレーし、2014年に現役を引退。引退後は、清水エスパルスのサッカースクールコーチに就任。2021年には自身の理想が詰まった「FCガウーショ」を設立し、2023年度には「JA全農杯全国小学生選抜サッカーIN東海」、「JFA 第47回全日本U-12サッカー選手権大会静岡県大会」でともに優勝。今後は更に静岡のジュニア年代に衝撃を与える存在として活動を続ける。