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岩下敬輔氏インタビュー[vol.3]

-監督のお話が出ましたので、岩下さんは引退後の記事で「自分は指導者には向いていない」と話されていましたが、その考えは変わりないですか?岩下コーチや岩下監督の姿を見たいと思っているサポーターも多いかと思いますが?

指導者というか、監督がいてその右腕というかサポートする役割ならやれるとは思いますが、自分がトップに立ってやりたいという気持ちはないですね。監督はどうしても孤独な立場になると思うのですよね。それは今の経営者という立場も同じだということで、一番上に立つその大変さと選手に対するマネージメントなどを考えると、どうしても選手のことを考えてしまうかなと。その家族のことや生い立ちなども気にしちゃうので、情がどうしても入ってしまう性分なので、そういうことはトップとしては、特に監督という立場では良くないと思うので…。逆を言えば、監督のため、選手のためという立場の右腕であれば、そこで起こっている事態に向き合える自信はあるので、そういう部分では今も声をかけてもらっているところもあるし、以前のように興味がまったくないわけではなくなっていますね。

-鹿児島の地元高校の選手権の全国大会もサポートしていましたが、実際に指導されてみた感想というのは?

やっていくと上手くなるし、強くなるし、それに対して子供たちがリアクションを取ってくれるので、やりがいはありますね。あとは高校サッカーの監督さんは100人くらいの選手を見なければいけないですけど、一方で教育者という立場もあるので、一人ひとりの選手に対してそこにも目を向けなければならないから、サッカーだけに向き合っているわけではないのですね。だけど僕はサッカーだけで呼ばれているという認識なので、そういう意味でもやりがいは感じています。

-今の高校生というのは、岩下さんが高校生の頃と何か違いを感じますか?

技術的には上がっていると思いますが、気持ちという部分は…。そこは親御さんですかね。時代に対応している親御さんなのか、時代に追い付いていない「スパルタでハングリーにやれ」という親御さんとでは、その子供の反応やその対応に違いが出ますから、だからその親御さんを見て言い方も変化をつけるし、「このくらいきつく言っても響くな」という子には凄く厳しく言ったりします。でも、その使い分けというのも難しいですけど、面白いですよ。

-岩下さんのお父様はかなり厳しい方だったということですが、その経験が子供と向き合う上で生きている感じでしょうか?

間違いないですね。本当にそうだと思いますし、自分の親が厳しく僕に接してくれたことは、それが良かったか悪かったかは別にして、そういう引き出しを理解しているということは今の僕の強みであると思いますし、もし僕の子供の頃に、親が「オマエの好きな通りやればいいし任せるよ」と育てられていたら、そういった指導のやり方もわからなかっただろうし、できなかったと思うので…。教え子の中には現役を終えて卒業しても連絡してくれる子もいれば、全然連絡してこない子もいるし、それはそれでいいと思うし、でも僕は全員に同じ対応ではなくてメリハリをつけて向き合ってきたつもりで、そこに後悔はないですし、これからもそうやって向き合いたいと思っていますね。

-その他に、岩下さんが子供と向き合う時に気をつけていることはありますか?

個人ではなくてチームとして指導に行っていますから、基本的にはそこは選手の全員に平等に伝えなければいけないですけど、でも個人の能力とか理解力、あとはできる、できないというのは個人差があるので、そこはしっかりとジャッジしてあげて、その子に合わせた要求をするという、この子ならここまでのレベルのことを要求しても大丈夫だけど、こっちの子にはそれが苦になってしまうかもしれないので、もう少しレベルを下げた要求や話をしてあげるようにしていますね。特に高校年代というのは凄く個人差があるのでそこはやってあげないといけないですけど、それでも最低限のベースについては明確にしてあげないと、その指導方法について個人的な不信感を抱いてしまうので、そこはある程度の基準と歩み寄り方というのは使い分けてやっているつもりです。子供たちというのは「自分ばかり」となりがちなのでね。でも「もっと言ってほしいのに」と思っている子もいたりして…。面倒なのですけど、そのリアクションというのが子供たちの良さでもあると思っています。

-なかなか難しいですね?

高校生ならではのやりがいを感じるところですし、これがプロであればそんなことをやる必要はないですし、こちらが歩み寄ることをあえてする必要はないと思います。でも、子供たちにはそこは結構気を使ってやってあげないといけないと思っています。

-岩下さんの子供の頃は、サッカー以外のスポーツは興味がなかったのですか?

僕がサッカーを始めたキッカケは、家の目の前が公園でそこで幼稚園児のサッカースクールをやっていて、僕はやっていなかったのですが「人数が足りないから入ってほしい」と言われて、人数合わせみたいな感じて何回か参加したら、そこのコーチに「まあまあ上手いのでサッカースクールに入らないか」と声をかけられたのが最初ですけど、僕の親父は陸上やっていましたからスポーツは好きでしたし、それこそ近所の公園でいろいろなスポーツをやりましたよ。でも鹿児島は田舎なので、野球なら巨人しかテレビで放送していなかったですけど、サッカーがプロ化してJリーグが開幕したのがちょうど物心がついた頃で、野球よりもサッカーの方が盛り上がった時期が重なったのも、サッカーを続けるのには大きかったかなと思います。

-お父様はアスリートということで、岩下さんはお姉さんと妹さんの3人兄弟ですが、2人からは何か影響を受けましたか?

影響というよりも僕がサッカーをやったために、姉ちゃんも妹も凄く我慢させてしまったと思います。小学生の頃から全国大会に出ていましたし、鹿児島代表の試合やナショナルトレセンにも選ばれていましたから、もう親が僕中心の生活になってしまっていて、「プロになれるのではないか」と舞い上がっていたのは、子供ながらにヒシヒシと感じていました。だから、姉ちゃんも妹も我慢させてしまったことが多くあると思います。しかも姉ちゃんはバレーボールでインターハイに出ていたし、妹も九州で一番か二番の陸上の選手だったのに、そういう扱いを受けていましたから。それはやっぱりバレーボールや陸上よりもサッカーはプロ選手として成立できるということで、僕に親が付きっ切りとなってしまったということがありましたね。

-それでは、今のエスパルスについてお聞きしたいのですが、J2リーグでまさかの2年目を戦っているわけですが、岩下さんから見て今のチーム、クラブについては何か思うところはありますか?

とりあえず、まずはJ1へは当たり前に昇格してもらいたいですね。そのJ1でやっているのが普通だという時代を過ごしていたので…。まあただ、今の選手たちが必死に頑張ってくれているのは分かっていますし、そこに対して会社もリアクションを取っている段階だと思うので、そこはさっき話したように僕らが1つでもタイトルを取れていれば、この今の状況にはなっていなかったかもしれないので、エスパルスのOBとしてはその責任というものはあると思いますし、今エスパルスで起こっていることはもう関係ない、知らないではなくて、もっと関わらないといけない、いろいろな形で携わらなければいけないと僕は思っています。
僕も含めて今はもう別の世界で生きている人もいると思いますけど、他人事ではなくてそれぞれの立場で今できることをやれればと。僕は僕なりにやっているつもりですし、エスパルスのファンやサポーターに、「もっと応援しようよ、スタジアムに行こうよ」と積極的に言わせてもらっていますし、逆にファン、サポーターの声も聞きつつ、エスパルスの選手たちが店に来た時に言えること、言えないことはありますけど、「こういう風な想いがあるよ」と僕なりの言葉のチョイスで選手には伝えているつもりです。

-そういうエスパルスのコミュニケーションの場としても、今のお店を役立てていると?

他のチームの選手や他ジャンルの選手とエスパルスの選手をあえて会わせる機会を作ったりして、サッカー選手はどうしても現役時代は特にサッカー業界だけのコミュニティになりがちなので、幅広いジャンルへと広げてあげる、それをつなげてあげる役割ということも、今は少しできていると思っています。僕も現役の頃はそういうのは鬱陶しいとか面倒だとか思っていたところはありますし、サッカーだけやっていればいいと思っていましたけど、現役時代だからこそそういうのが大事というのは離れてみてわかったことなので、例えば先日、冨安が帰国して代表合流前のちょっとした空き時間に店に寄ってくれて、まあその時はエスパルスの選手は試合前ということもあって呼ばなかったですけど、現役日本代表の、海外でバリバリにやっている選手の話は絶対に参考になるので、そういうつなぎ役というのもある意味必要であるし、今のエスパルスにとってもプラスになると思っていますね。今の選手の中には僕からの連絡を「鬱陶しくて嫌だな」と思っている選手もいるかもしれないけど、それでもいいからコミュニティを広げる手伝いをやってあげたいと思っていますね。

-でも、特に連絡して呼ばなくても選手たちは店に来るのですよね?

そうですね。選手だけではなくてスタッフ、会社の人も来てくれますし、秋葉監督も来てくれます。
個室があるので、そこでお酒と食事をしながら今のエスパルスについていろいろな話をしていると思いますよ。もちろん、そこには僕は干渉しないですけど、そういう風に周りを気にせずにリラックスした中でコミュニケーションを取れる場を提供できているとは思っていますから、本当に店をやって良かったと思っています。でもそれは選手や監督、スタッフだけではなくて、一般の人も仲間と楽しい時間を過ごしてもらえればという風には思ってやっています。

-そうですね。特に注目される人にとってはそういうお店は貴重な存在ですね?

そういう店が静岡には少ないかなと思っていましたし、あとはさっきも言いましたけど、エスパルスの選手だけではなくて、例えばベルテックス静岡の加納誠也くんとかをエスパルスの選手とつなげることもできましたし、エスパルスのファン、サポーターの方が「ベルテックス静岡の選手も店に来るんだ」ということで、エスパルスだけではなくてバスケにも興味を持ってくれたりもしています。バスケの試合後に店に来てくれる人もいるので逆のパターンもあると思いますから、まだまだエスパルスサポーターが多いですけど静岡全体でスポーツが盛り上がればいいし、その発信基地としてあの店が役立てれば最高だと思います。

-昨年には、エスパルスから移籍した大久保択生選手とサポーターの送別会の企画、先日には複数クラブのサポーターの交流会をやられたようですが?

サポーターの交流会は1回目としてやりました。静岡在住の福岡サポーターが、「エスパルスの試合後には店に行き辛い」と言っていたのですよ。でも福岡はJ1なのだから大きな顔をして来てくれればいいよと嫌味も込めて言ったのですが、そういう声があったので今回その企画をやりました。もちろん、エスパルスのサポーターも他クラブのサポーターが嫌だということはなく、逆にエスパルス以外のクラブに興味がないので、「福岡はどんなチームでどんな選手がいる?」と聞いていたりして…。それに大阪からわざわざガンバのファンも来てくれて、まあ僕が在籍したクラブだけでしたけど、今後は藤枝だったり、磐田だったり…。磐田は無理かな…。でもそれでも、磐田のサポーターでも来て交流してほしいですよ。試合の時は敵意むき出しでやり合えばいいけど、店では仲良く静岡のサッカーについて語り合ってほしいですね。そういうのはここでしかできないことであると思うから、他クラブのことも知ってやっぱりエスパルスが一番好きでいいと思うし、それでエスパルスの選手に対しての考え方や応援のやり方が、更に良い方向に変わってくれれば、と思いますけどね。

 

続く